判例 5 慰謝料と財産分与との関係

慰謝料請求権と財産分与請求権の関係

慰謝料請求と財産分与請求の双方を請求できるとした事案
(昭和31年02月21日 最高裁判所第三小法廷)

(判例要旨)
一 夫婦がその一方甲の有責不法な行為によつて離婚のやむなきに至つたときは、その行為が必ずしも相手方乙の身体、自由、名誉等に対する重大な侵害行為にはあたらない場合でも、乙は、その離婚のやむなきに至つたことについての損害の賠償として、甲に対し慰藉料を請求することができる。
二 前項の場合において、乙が甲に対し、財産分与請求権を有することは、慰藉料請求権の成立を妨げるものではない。

(理由)
 上告代理人大西幸馬、同大山菊治の上告理由第一点について。
 論旨は、現行民法においては離婚の場合に離婚をした者の一方は、相手方に対して財産分与の請求がで きるから、離婚につき相手方に責任があるの故をもつて、直ちに慰藉料の請求をなし得るものではなく、その 離婚原因となつた相手方の行為が、特に身体、自由、名誉等の法益に対する重大な侵害であり不法行為の 成立する場合に、損害賠償の請求をなし得るに過ぎないものと解すべきである。しかるに原判決が右と異な る見解をとり慰藉料の請求を認容したのは、慰藉料請求権の本質を曲解した違法があるというに帰する。
 しかしながら、離婚の場合に離婚した者の一方が相手方に対して有する財産分与請求権は、必ずしも相手 方に離婚につき有責不法の行為のあつたことを要件とするものではない。しかるに、離婚の場合における慰 藉料請求権は、相手方の有責不法な行為によつて離婚するの止むなきに至つたことにつき、相手方に対して損害賠償を請求することを目的とするものであるから、財産分与請求権とはその本質を異にすると共に、必ずしも所論のように身体、自由、名誉を害せられた場合のみに慰藉料を請求し得るものと限局して解釈し なければならないものではない。されば、権利者は両請求権のいずれかを選択して行使することもできると解すべきである。たゞ両請求権は互に密接な関係にあり財産分与の額及び方法を定めるには一切の事情を 考慮することを要するのであるから、その事情のなかには慰藉料支払義務の発生原因たる事情も当然に斟 酌されるべきものであることは言うまでもない。ところで、これを本件について見ると、被上告人は本訴において慰藉料のみの支払を求めているのであつて、すでに財産分与を得たわけではないことはもちろん、慰藉料 と共に別に財産分与を求めているものでもない。それ故、所論の理由により慰藉料の請求を許されずとなす べきでないこと明らかであるから、所論は理由がない。

 同第二点について。
 原判決は、本件離婚の原因が、主として上告人の母Aの被上告人に対する冷酷な言動にあつた事実を認 定し、かつ上告人が夫として破局を防止し得たにかかわらずその努力を怠つたことを理由として上告人に離 婚の責任があるとしたに止まらず、上告人が「むしろ母の言動に追随する有様であつた」との事実をも併せて 認定しているのである。してみれば、所論のように上告人の行為を不作為だけとなすのは当らない。そして、論旨は、現行民法により財産分与請求権が認められた以上、特に重大な権利侵害があつた場合でなければ 慰藉料請求は許されないとの理論を前提としているが、右理論自体が誤りであることは、第一点について判 示したとおりであるから、所論は採るを得ない。なお、論旨中には違憲をいうけれども、その実質は上告人に 本件離婚の責任があるとした原判決の実体法規の解釈適用を非難するに帰するので、適法な違憲の主張に当らない。
 その他の論旨は、原審に審理不尽の違法があると主張するに過ぎず、すべて「最高裁判所における民事 上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。

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